『トットちゃんとソウくんの戦争』(講談社、2016年7月)を読んで

2016年08月10日

学長社会時評

 『トットちゃんとソウくんの戦争』(講談社、2016年7月)を読んで

芹田健太郎



日本の八月は、広島・長崎への原爆投下、敗戦と続く日々に思いを致し、慰霊を行い、平和を祈るが、伝統的にお盆の時期に当たり、先祖を迎え、先祖を送る月でもある。本年は特に、オバマ大統領が広島を訪れ、また象徴としての天皇の内外の慰霊の旅も一段落し、日本の進路にとって極めて重要な時期を画す時期となる予感がある。

 本書の著者二人は、太平洋戦争が始まったとき、トットちゃんこと黒柳徹子さんが小学校二年生、東京・現世田谷区自由が丘あたりに住み、ソウくんこと田原総一朗さんは小学校一年生、滋賀県・彦根にいた。ついでながら僕は旧満州(現中国東北地方)生まれで桂木斯(ジャムス)市にいた。
 本書は、まえがき「するめ味の戦争責任」を黒柳さんが、あとがき「正しい戦争」なんて存在しない、を田原さんが書き、その間に、「戦争のあしおと」「戦争の記憶」「戦争とテレビ」の三章に、各人が書いている。
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Posted by 京都ノートルダム女子大学学長ブログ at 19:45学長社会時評

欧州はなぜ統合の道を歩いたのかー英国のEU離脱選択から考えるー

2016年06月27日

欧州はなぜ統合の道を歩いたのか
-英国のEU離脱選択から考える―
             

                                                                芹田 健太郎

 6月23日の国民投票で英国民は欧州連合からの離脱を選択した。
 英国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland大ブリテン及び北アイルランド連合王国)は、世界第5位の
経済大国であり、国連安保理常任理事国として政治的発言力も大きく、世界に大きな波紋を広げている。

 しかし、なぜ欧州は統合への道を歩いてきたのか。周知のように、世界恐慌から1930年代の経済のブロック化が始まり、また、
轡を一にするかのように人種優越主義(racism)と排外主義(xenophobia外国人嫌い)が蔓延り、結局は第2世界大戦を引き
寄せてしまった。そのことへの痛切な反省から戦後世界は自由貿易と人権尊重が基調となり、植民地解放が進んだ。

 第2世界大戦の主戦場はドイツを中心に西はフランス、東はポーランド、ロシアまで広がるヨーロッパ大陸であった。この戦争は
日本が中国大陸で続けていた戦争の挙句に1941年に対英米宣戦布告を行うことにより世界戦争となった。

 ヨーロッパでは、1871年の普仏戦争、1914年の第1世界大戦、1939年の第2世界大戦と、70年の間に3度も大戦が続いた。
 第2世界大戦後、中東欧が共産主義圏に西欧が資本主義圏に分裂し、東にワルシャワ条約機構(WTO)、西に北大西洋条約
機構(NATO)が対峙し、冷戦が起きたが欧州の安全は保障された。西欧では汎ヨーロッパ運動が起き、現在の欧州協議会が
生まれ、冷戦後の今ではロシアを含む全欧州諸国が加盟する。欧州人権条約がそこから生まれた。

 他方で、しかし、ドイツとフランスの恩讐は、一つは石炭と鉄鋼の資源争奪戦としてストラスブール地方の領土争奪となって
いたので、独仏中心に欧州石炭鉄鋼共同体がつくられ、後に、1957年に欧州経済共同体EECが創られ、欧州共同体ECとなり、
欧州連合EUに発展する。英国は欧州大陸の経済統合を目指す経済共同体に対抗して、EECに加わらなかった北欧諸国を誘い、
1960年に緩やかな欧州自由貿易連合(EFTA)を創ったが、1973年遂にECに参加し、今日に至った。
 つまり、第2世界大戦この方、ブロック経済もなく、欧州では戦争もなかった。英国がEUから離脱したとしても、一時的経済の
混乱はあるだろうが、戦争は起きない。その意味で欧州統合は成功しているのである。しかし、気がかりは、安定した大きな市場
を生み出しながらも域内に経済格差があり、確立された人の移動の自由が排外主義を生み出し、蔓延りつつあるように見えること
である。

 今回の英国の投票の背景に見られるにとどまらず、日本でも嫌中や嫌韓が蔓延り、ヘイトスピーチが闊歩している。
 同じ第2世界大戦の敗戦国として、ドイツと日本は70年代経済大国となったが、政治大国ではなく、今後も政治的に突出すること
なく、人道や経済や平和的結束の意義やメリットを地道に率先して示すほかはない。        
                                                               (国際法・国際人権法学者)




  


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学長社会時評  オバマ米国大統領の広島演説-原爆被害と核廃絶ー

2016年05月30日

学長社会時評

 オバマ米国大統領の広島演説-原爆被害と核廃絶そして戦争なき世界へー

芹田健太郎


 日米の戦争の始まりは1941年12月10日のハワイの真珠湾攻撃であった。そして終わりを速めたのが1945年8月6日の広島、同9日の長崎への原爆投下であった。終わったのは8月15日である。

 今回のオバマ大統領の広島での演説は、核廃絶の道のりからは、大統領就任直後の2009年4月5日のチェコ・プラハ演説の延長線上に位置づけられる。プラハで、オバマ大統領は、世界で核兵器を用いた唯一の国として、核のない世界(a world without nuclear weapons)へ向けて行動する道義的責任があるとして、大統領選挙期間に、特に若者に向けて”Yes, we can" と訴えたように、核廃絶を"Yes, we can "と主張しなければならないと、世界に強く訴えた。  続きを読む


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障害者差別解消法の施行

2016年03月25日

障害者差別解消法の施行
芹田健太郎


 障害者差別解消法(障害を理由とする差別解消の推進に関する法律、平成25年6月26日法律65号)は、平成28年4月1日から施行することが決められていたが、このたび4月1日に施行されることとなった。

 障害者差別解消法は、国連の障害者権利条約が2014(平成26)年2月19日に日本について発効したが、その国内法整備のために制定されたものである。  続きを読む


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夫婦同姓合憲判決について

2015年12月18日

夫婦同姓合憲判決について
芹田健太郎


 12月16日の判決で最高裁判所は、夫婦同姓を定める民法の規定が合憲か否かが争われた事件に対し、10対5で、民法規定を合憲であるとする判断を示した。
 夫婦同姓と再婚禁止期間の規定については、国連女性差別撤廃委員会現委員長林陽子弁護士も指摘しているように、同委員会はこれら規程が女性に差別的であるとして、しばしば日本に改善を勧告してきた。今回の判決で、女性再婚禁止期間6ヶ月については、100日超は違憲であると、裁判官全員一致で、判断した。これを受け法務省は即日実施を全国の自治体に通知した。しかし、今日では、父親の推定は科学的に可能であることのほか、無戸籍児の出現は避けなければならないことを考えると、この判断には不満が残る。しかし、それはおいて、夫婦同姓合憲判断について考えたい。  続きを読む


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性犯罪の厳罰化と人間の尊厳

2015年10月21日

性犯罪の厳罰化と人間の尊厳
芹田健太郎


 性犯罪の厳罰化によって性犯罪の防止につなげたいとして、前の法務大臣が10月2日に法務大臣の諮問機関である法制審議会に諮る考えを発表し(「朝日」10月3日朝刊)、内閣改造で交代した現法務大臣が同9日、強姦罪の法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げ、また、現行法では強姦罪で起訴するには被害者の告訴を必要とする親告罪の規定を削除するなどの刑法改正要綱を同審議会に諮問した(「神戸」10月10日朝刊)。  続きを読む


Posted by 京都ノートルダム女子大学学長ブログ at 08:58学長社会時評

2015年9月期卒業式辞

2015年10月01日

2015年9月期卒業式辞
芹田健太郎


 ご卒業おめでとう。あなた方の卒業に当たり、人生を豊にする2つのことをお話ししたい。
 まず、仕事以外のことに趣味でも何でも良いから打ち込めるものを持って欲しい。あなた方の先輩で、たとえば1期生で、だから70才を超えておられる人のことですが、学生の頃ワンゲルに入り、山歩きをしておられた。ワンゲルというのは、もともとは、ドイツ語のWandervogel渡り鳥の略語で、20世紀初頭にドイツで始まった若い人たちの徒歩旅行の運動です。日本では今でも大学のクラブ活動としてあります。  続きを読む


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【学長社会時評】『獄中メモは問う』が問いかけるもの

2015年09月11日

『獄中メモは問う』が問いかけるもの
芹田健太郎

 
 『獄中メモは問う』は、北海道新聞記者佐竹直子が2013年8月に札幌市内で偶然見つけた獄中メモ
を手がかりに、70年前に起きた治安維持法違反容疑で連行された「北海道綴方教育連盟事件」に巻き
込まれた教員たちとその家族、教え子、同僚、弁護人たちの姿を追った記録である。
「事件」は1940(昭和15)年から翌年にかけて起きた。子どもたちに自分の暮らしや日常の思いを
ありのままに作文に書かせる作文(綴方)教育に励んでいた青年教師たちが「貧困などの課題を与えて
児童に資本主義社会の矛盾を自覚させ、階級意識を醸成した」などとして逮捕され、11人が有罪とされた。

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【学長社会時評】戦後70年談話と積極的平和主義

2015年07月16日

戦後70年談話と積極的平和主義
芹田健太郎

 8月15日が近づき、戦後70年談話のことが現実味を帯びて語られるようになった。侵略のおわびはなく、積極的平和主義が中心で未来志向のものとなるだろうとの予測が報じられた。未来志向に異論はない。しかし、日本は、鎌倉時代に元・高麗連合軍に襲われた、いわゆる元寇のほかには外国から襲われたことはなく、明治以降日本が朝鮮半島・中国に攻め入り、人びとに多大な損害を与えた。このことは認識の問題ではなく、歴史の事実であり、否定し難い。
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Posted by 京都ノートルダム女子大学学長ブログ at 17:30学長社会時評

【学長社会時評】1.17 絆 3.11

2015年01月30日

1月17日(土)入試センター試験の第1日目、天皇皇后両陛下ご臨席の下、阪神淡路大震災20年の追悼式典が兵庫県公館で行われた。3権の長は、両院議長、最高裁長官は出席したが、総理の不在が目立った。震災当時の村山総理、野中大臣も出席した。遺族代表のことば、新成人の決意表明等があり、今回は一般に公募された作品の中から小学生代表、中学生代表、高校生代表が各自のものを読んだ。式典の中で、読まれ、語られたことばの中など随所に3.11のことが触れられた。歌も、神戸の「しあわせ運べるように」と東北の「花は咲く」がともに歌われた。式典参加者にも東北の人たちが招かれていた。阪神淡路の20年は、東北のことが常に意識されて語られた。  続きを読む


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