2015年9月期卒業式辞

2015年10月01日

2015年9月期卒業式辞
芹田健太郎


 ご卒業おめでとう。あなた方の卒業に当たり、人生を豊にする2つのことをお話ししたい。
 まず、仕事以外のことに趣味でも何でも良いから打ち込めるものを持って欲しい。あなた方の先輩で、たとえば1期生で、だから70才を超えておられる人のことですが、学生の頃ワンゲルに入り、山歩きをしておられた。ワンゲルというのは、もともとは、ドイツ語のWandervogel渡り鳥の略語で、20世紀初頭にドイツで始まった若い人たちの徒歩旅行の運動です。日本では今でも大学のクラブ活動としてあります。

この1期生を先頭に、ND祭で、ネパールの民族品を売り、その売り上げや寄付金を集め、ネパールの目の見えない女子たちの支援のために使っておられます。今でも山を歩き、とても生き生きとしておられます。子どもを育て、孫を連れてネパールに出かけ、大地震の後のネパール援助にも尽力しておられます。この方たちから僕が気付かされているのは、自分が持っている多様性、つまりそれぞれの人が持つ多様性であり、自分の持つ多様性故の、人への思いやりです。
 このことから、何の脈絡もないように見えますが、2つ目に、言葉を大事にし、多くの自分の言葉を持って貰いたいことです。小さなことでも良いのです。たとえば、何かを食べて、美味しい、という言葉を使います。そのときに、甘くておいしいのか、酢っぱみがあっておいしいのか、辛みがあっておいしいのか、言葉で表現してみて欲しい。
 しかし、もっと考えて欲しいのは、世の中には水増しされた、調子のよい、気持ちよく響く言葉が溢れていることです。あなたたちは、いわば水増しされた言葉の世界で泳がないで欲しい。言葉は人だけが持っています。言葉は人間を表します。もちろん、あなた方が知っている聖書のヨハネ福音書は「初めに言葉があった。In the biginning the Word already existed 」で始まり、その言葉はイエス・キリストのことですが、そこに繋がるかもしれませんが、そのお話しではありません。
 東日本大震災について書かれた「言葉」という谷川俊太郎の詩があります。
「何もかも失って/言葉まで失ったが/言葉は壊れなかった/流されなかった/ひとりひとりの心の底で
 言葉は発芽する/瓦礫の下の大地から/昔ながらの訛り/走り書きの文字/途切れがちな意味
 言い古された言葉が/苦しみゆえに甦る/哀しいゆえに深まる/新たな意味へと/沈黙に裏打ちされて」(詩集『こころ』朝日新聞出版)
2週間前の関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊しました。僕の住む新神戸駅から大阪梅田あたりまでが水浸しになったようなものだと聞きました。京都で言えば、鴨川が決壊し、京都駅から南の枚方あたりまででしょうか、が水に沈んだ。皆さん、呆然と言葉を失っておられた。でも、言葉を人々は壊されていないし、流されてもいない。沈黙に裏打ちされた自分の言葉を持っている。そういう言葉があるから、人を思いやる心が育つ。心から有難うと言える。そういう言葉をもつことは、皆さんに人を思いやる心を育て、皆さんの人生を豊にするものと信じています。卒業、本当におめでとう。ここはあなた方がいつでも帰ってくることにできる場所です。行ってらっしゃい。

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Posted by 京都ノートルダム女子大学学長ブログ at 16:17 │学長社会時評

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